Shinji Katayama
発病株の萎凋症状
葉上に形成された病斑
(薄墨状の黒斑が見られる)
ランナー上に形成された病斑
(黒変し後に陥没・折損する)
病斑は葉、茎、ランナーなど、イチゴの株全体に発生する。特に根の先端に侵入すると株全体が萎れてしまうため被害が大きい。茎やランナーには黒色のややへこんだ病斑をつくり、病斑上に鮭肉色の胞子(分生子)の塊を多数生じる。多湿条件下では、小葉に薄墨を垂らしたような1~2mm程度の病斑を形成する。枯死株の根の先端を切断すると外側から内部に向かって褐変が進行していることが多い。
高温、多湿条件で分生子塊を多数形成する。主に育苗中に雨滴やかん水によって胞子(分生子)が飛散し、感染が拡大する。温度が低下すると感染株の病徴の進行が抑制されるが、根の先端や葉をささえる部分の一部に保菌して越冬し、見た目ではわからない感染株となる。感染株や発病した植物の残渣を含む土壌等が伝染源となり、翌春に発病すると考えられる。
雨よけ栽培や、点滴かん水を取り入れることで、胞子(分生子)の飛散を抑制する。また、風通しを良くし、高温、多湿を避ける。萎れや黒斑が見られた株は早急に除去し、胞子(分生子)の形成、飛散を予防する。薬剤防除にはファンタジスタ顆粒水和剤が利用できる。
各種薬剤に対する耐性菌の発生が報告されているため、地域の耐性菌発生状況を確認し、他系統の薬剤とローテーション散布を行う。
葉の奇形症状
発病株のクラウン断面
(維管束の褐変が見られる)
萎黄病の初期段階では、新葉が黄色味を帯び、つやがなくなる。新葉の3小葉のうち1~2葉が小型化しねじれ、さらに症状が進むと株全体が矮化(通常の株より小さくなる)し、萎れて枯死する株も発生する。根の先端、葉柄、ランナー断面の維管束(水分や栄養が通る管の束)が褐変し、根の褐変腐敗も見られる。
高温時に発病しやすく、前年の発病した植物の残渣や、病原菌の耐久性の高い胞子(厚膜胞子)が土中に生存して一次伝染源となり、根から侵入し発病する。育苗ほで親株が発病するとランナーを介して苗が発病したり、保菌株となる。発病株は三日月型の胞子(大型分生子や小型分生子)を形成して感染を拡大するほか、耐久性の高い胞子(厚膜胞子)を形成し、土中に長期間生存することで、次作の伝染源となる。
耐久性の高い胞子(厚膜胞子)は土中で長期にわたり生存し、一度病原菌を持ち込むと根絶は難しい。発病圃場では、発病した植物の残渣を除去し、土壌燻蒸剤か太陽熱等で土壌消毒を実施する。また、親株は無病苗を用い、前年の苗を用いない。
発病株の萎凋症状
発病株のクラウン断面
疫病の初期段階では、根の先端部と根の付け根が褐変する。次第に褐変が進行し、地上部は立ち枯れ症状がみられる。根の先端を切断すると褐変が進行しており、炭疽病の特徴と類似する。
前年の発病した植物の残渣や土壌が一次伝染源となる。高温時期や排水不良等が続くと発生しやすく、降雨やかん水時にまん延すると考えられる。
発病株は発見次第早期に抜き取り、ハウス外で適切に処分する。発病圃場では、土壌燻蒸剤か太陽熱等で土壌消毒を実施し、次作に病原菌を持ち越さないようにする。また、親株は無病苗を用いる。
発病株の萎凋症状
根の黒変・腐敗症状
根に形成された卵胞子
発病すると株の生育が停滞し、葉に黄化や萎れを生じる。発病が進むと葉の縁から枯れ上がり、根が暗褐色に腐敗、株全体が萎れる。
前年の発病した植物の残渣や土壌に残存した胞子(卵胞子)が次作の伝染源となる。土壌中の水分量が多いと発病しやすい。
発病株は発生次第早期に抜き取り、ハウス外で適切に処分する。過湿になりやすい場合は排水対策を講じ、発病しにくい環境を整える。土壌燻蒸剤か太陽熱等で土壌消毒を実施し、次作に病原菌を持ち越さないようにする。また、親株は無病苗を用いる。
発病株の萎凋症状
発病すると、葉と茎の接続する部分が褐変し、株全体の生育不良が認められる。下葉から次第に枯死し、葉と茎の接続する部分の断面は外側から褐変が進行している。被害が進行すると、表面にクリーム色の菌糸を密生することがある。
前年の発病した植物の残渣や土壌に残存した耐久性の高い胞子(厚膜胞子)が一次伝染源となると考えられる。気温と湿度の上昇につれて発病が増加する。また、施肥過剰等により塩類が多くたまった圃場で発病しやすいとされる。
発病株は発見次第早期に抜き取り、ハウス外で適切に処分する。発病圃場では、土壌燻蒸剤か太陽熱等で土壌消毒を実施し、次作に病原菌を持ち越さないようにする。
葉表に形成した病斑
葉裏に形成した病斑
(葉脈に囲まれた水浸状病斑を形成)
葉に発生し、葉裏に葉脈で囲まれた水浸状の小斑点を生じる。次第に小斑点が融合、拡大し、葉枯れ症状を起こす。高湿度条件では、病斑から細菌による粘液が漏出することがある。
発病株から流出した病原菌を含む水滴が、風雨や潅水、接触などで拡散することで伝染すると考えられる。
病斑の発生した部位は早急に圃場内から除去し、埋設や焼却などの適切な手段で処分する。発病株からの採苗は避け、健全な苗から採苗する。
果実に形成した白色胞子
葉に発生した白色胞子
(発病葉がスプーン状に巻く)
ランナーに発生した白色胞子
葉や果実、果柄のほか、葉柄やランナーにも発生する。被害の初期段階では、下葉に赤褐色の斑点として現れ、やがて新葉の裏面に白色の菌を生じ、進行すると小葉が上向きに巻いてスプーン状となる。果実に発生すると着色や肥大が劣り、減収につながる。
病原菌はイチゴ上で生活し、菌糸で越夏すると考えられる。気温が20度前後になると胞子でまん延するほか、遮光すると多発することがある。多湿条件であるほど多発するが、やや乾燥した条件でも発生する。
発病部位は見つけ次第除去し、ハウス内に放置しない。多発すると防除が困難になるため、発病初期の防除に努める。
果実に発生した灰色胞子
葉に発生した病斑
(灰色胞子を形成)
葉に発生した病斑
(輪紋症状を形成)
主に果実に発病し、がく、葉、葉柄、果柄などにも発病がみられる。果実では収穫直前のものが発病しやすく、はじめ水浸状の小斑点を生じ、次第に拡大して果実を軟化腐敗させ、全面に灰色粉状のかびを生じる。がく、葉柄、葉、葉柄などは発病すると褐変し、灰色のかびを生じる。感染後にほ場が乾燥していると、灰色のかびの発生が見られないこともある。
病原菌は胞子(分生子)、菌糸の形で感染株に残存するほか、菌核の形でほ場内に残存し、次作の伝染源となる。これが、枯死した下葉などに寄生増殖し、有力な感染源となると考えられる。気温が20度前後で多湿のときに発生しやすく、密植や徒長、過繁茂になると発生が多い。また、朝夕の急激な冷え込みで植物体が結露すると発病を著しく助長する。
発病部位は見つけ次第除去し、ハウス内に放置しない。換気を図り、多湿にならないようにする。マルチを行い、土壌からの伝染を予防する。発病前からの薬剤の予防散布に努める。薬剤散布にはファンタジスタ顆粒水和剤が利用できる。各種薬剤に対する耐性菌の発生が報告されているため、地域の耐性菌発生状況を確認し、他系統の薬剤とローテーション散布を行う。
葉に発生した病斑
葉に発生した病斑(多発)
葉、葉柄、ランナーに発生する。葉では紫褐色、不整円形の小斑点を生じる。病気が進むと中心がえ死し、周囲は紫褐色、内部は灰褐色の輪紋状病斑となる。葉柄やランナーには赤紫色の浅くへこんだ病斑を生じ、その周囲は赤変する。古くなった病斑上には小黒粒点(柄子殻)を形成する。
被害葉上の越冬し、翌夏に胞子を飛散して伝染すると考えられる。梅雨時の後半以降、高温と降雨に伴ってまん延する。
2次伝染を防ぐため、発病部位は見つけ次第除去し、ハウス内に放置しない。苗は発病していない親株から採取する。雨よけ育苗を行い、頭上潅水を避ける。
写真提供:静岡県農林技術研究所
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