Shinichi Kusakari
大阪府立環境農林水産総合研究所で野菜園芸、土壌病害、発生予察、養液栽培の病害防除等について研究。養液栽培の防除資材オクトクロス、静電気による病原菌、害虫侵入抑制システム・静電場スクリーンを共同開発。平成17年、養液栽培の病害防除で農業技術功労賞(平成17年度)。京都大学農学博士。
大阪府立環境農林水産総合研究所で野菜園芸、土壌病害、発生予察、養液栽培の病害防除等について研究。養液栽培の防除資材オクトクロス、静電気による病原菌、害虫侵入抑制システム・静電場スクリーンを共同開発。平成17年、養液栽培の病害防除で農業技術功労賞(平成17年度)。京都大学農学博士。
枝の分岐部に発生した病徴
枝分岐部に形成された菌核
果実の病徴
被害は、茎、果実に発生する。
主にナスの茎が侵される。茎の分岐部に被害が発生することが多く、被害部が茎を取り巻くと、その上位部で茎葉の萎れや枝が枯死する。また、主茎に発生すると株が枯死することがある。果実では、がくの部分、果実の肩(がくの近く)部分から発生、被害部位は、淡褐色に変色し、軟腐状になり、果実が腐敗する。菌核病の被害は、茎が侵され、枝や株の枯死が問題となる。
茎葉では、はじめ、暗色水浸状(水でしみたような)の病斑が生じ、病斑部は軟腐状になり拡大、表面に白色の菌糸がみられる。病変部には白色菌糸に混じって、黒褐色のネズミの糞状の菌核が形成される。枝が侵されると、その上部の茎葉が萎凋する。また、地際部の主茎が侵されると株が枯死することがある。
果実では、花落ち部分や、果実の肩の部分から発生することが多く、淡い褐色に変色し、軟腐状になり、白色菌糸を生じ、やがて菌核が形成される。
被害は、菌核が土壌中に残り、翌年、菌核から子のう盤(キノコのような)が生じ、子のう胞子を飛散、伝染する。圃場に罹病残渣を放置すると、被害が増加する。
低温、多湿条件下で発生する。灰色かび病よりやや低温傾向で、15〜20℃の条件下で発生が多い。ハウス栽培では、2〜3月頃から発生し5月頃まで、11月下旬頃から翌春5月中旬頃まで発生する。ハウス、露地栽培ともに被害が見られる。
菌核病は多犯性で、他の作物で発生すると菌核が土壌中に残って被害が発生する。
薬剤散布は、発病の始まる11月からのファンタジスタ顆粒水和剤が効果的です。ただし、連用すると耐性菌の発生する恐れがありますので、異なる種類の薬剤と交互の散布します。
ナスで例年発生が多い圃場では、早めに薬剤を散布する。灰色かび病と発生時期が重なるので体系的に薬剤を散布するとよい。
果実の病徴。
病患部の変色と胞子の形成
幼果実に発生した灰色かび病
果実の変色と胞子の形成
がくの部分の病徴
ナスの葉に発生した
灰色かび病の病徴
葉の変色状態と
輪紋形成、胞子形成
果実、茎葉が侵される。果実の被害が最も多い。茎葉果実に被害が発生すると、病斑部に多数の胞子を形成して、ハウス内の病原菌密度が高くなり、果実への被害が増加し、大きな被害となる。幼苗では、茎に発生した病斑で枯死することもある。
果実では、咲き終わった花弁から発生することが多く、残っている花弁とがくの境界部から発生し、果実に広がる。果実では、はじめ、病斑部が水浸状になるが、次第に褐変する。病変部は、陥没、腐敗、暗褐色になり表面に灰色かびを密生する。葉では、大型、茶色~淡褐色、輪紋のある病斑を形成する。葉縁部などに褐色で不整型の病斑ができ、表面に灰色のカビが密生する。葉柄、茎にも病斑を生じることがある。被害発生圃場では、収穫後の輸送中に被害の発生することもあるので注意する(貯蔵病害としての被害)。
半促成栽培では、11月頃から5月にかけて発生が見られる。気温15~20℃ぐらい、多湿環境下で被害が多発する。冬~春期のハウス栽培では、多重被覆下の栽培で発生が増加する。気温格差の大きい時期では、ハウス内で結露を生じることから被害が増加する。冬期の加温栽培では、加温による相対湿度が低下することから発生が減少する。
施設栽培の多湿条件下で発生する代表的な病害。ハウス内の湿度下げることが、被害発生の抑制につながる。換気、土面マルチ等ハウス内の過湿対策を徹底する。薬剤防除は、発生初期、または発生前の予防対策を含めて被害発生を抑制する。罹病葉、果実には胞子が形成され、ハウス内の病原菌密度を増加させる原因となるので、見つけ次第、ハウス外へ持ちだす。薬剤散布は、発生初期のファンタジスタ顆粒水和剤が効果的です。その後は種類の異なる薬剤との輪番散布をします。
初期の病斑
拡大した病斑
主に葉に病斑が発生するが、多発すると、茎や果実にも病斑が生じる。
葉の病斑は、紫褐色~黒褐色の小斑点が生じ、次第に拡大し、直径5mm~1cm程度の円形~不整形の病斑となる。下位葉や多湿条件下では、拡大して3~4cmの円形~不整形の病斑になる。病斑の周縁は、通常、紫黒色で明瞭、病斑は拡大すると内部が退色し、紫褐色から淡紫褐色になり中央に紫黒色の円形の部分ができて目玉状になり、しばしば輪紋をともなう。発病が激しくなると、落葉し生育が著しく抑制され、茎に病変ができ、多数病斑を生じると枝が枯死する。果実では、へたや果頂部に赤褐色の斑点を生じたり、果実表面に火ぶくれ状の小斑点ができ、果実が変形することがある。
ハウス栽培で発生が多い。露地栽培での発生は少ない。平均気温が20~25℃、多湿な環境下で発生する。5~7月頃のハウス内の高温多湿環境下で発生する。
ハウス栽培では除湿対策が重要で、高温多湿とならないように日中 換気し、昇温抑制、除湿対策をする。罹病葉、果実は、圃場周辺に放置しないようにする。多発圃場では、病原菌が資材や被覆資材に残り、被害を繰り返す事例があるので、栽培終了後、太陽熱消毒等により、病原菌の除去対策をする。薬剤散布は、発病初期にファンタジスタ顆粒水和剤などを散布する。
中心部が淡褐色となる
病気が進むと葉に穴があく
写真提供:
奈良県病害虫防除所
主に、葉に病斑として発生することが多いが、果実にも、くぼんだ褐色の病斑を生じるなど被害が発生する。
地上部より70〜100cm程度の中位葉に褐色病斑を生じる。病斑は、葉脈に沿って広がり星形になり、中心部淡褐色、周辺褐色の円形状の病斑。病斑は、拡大して1~1.5cm程度の融合病斑となり、湿度、気温条件によっては、数cm大の不整型の融合病斑を形成する。葉の病斑は、乾燥して破れ、穴があき、激しい場合、葉枯症状となる。果実では、がく周辺部から発生し、半円状、または円形に広がり、病変部は淡褐色~褐色になって軟腐状に腐敗する。また、果実に褐色でくぼんだ小斑点を多数生じる症状も報告されている。
発生時期、夏秋ナスで8月中旬から10月、半促成性ナスで4〜5月頃から発生する。
やや高温で多湿な環境下で発生が多い。
病原菌は、担子菌類に属し、病斑上に子実層を形成し、担胞子を形成し飛散伝染する。連作を避ける。罹病葉、罹病茎等を圃場に放置しない。発病初期にファンタジスタ顆粒水和剤などを散布する。
葉の表面の病徴
葉裏の病斑
葉に病斑ができる。下位葉から発生し、次第に上位葉へ広がる。
はじめ、葉の表面に、周辺のぼやけた黄色小班が生じ、葉裏に白っぽいカビが見られる。病斑は、拡大し、周辺のぼやけた淡黄褐色~褐色の円形の病斑になり、葉裏のカビは、灰褐色でビロード状になる。病斑直径は、5-10mm程度で、表面の病斑は、やがて、淡黄褐色から褐色になる。病斑と健全部分の境界部は不明瞭である。多発すると、病斑が融合し、落葉する。
被害はやや気温 高めの23〜28℃程度の温度下で発生する。湿度の高い条件下で被害が発生する。ハウス栽培では、通年発生すると考えてよい。2〜4月頃から発生し、発生すると高温下でも被害が継続する。
高温多湿環境下で発生する病害で、湿度の高いハウスで被害が増加する。ハウス栽培では、通年発生する。被害が発生すると、分生胞子が多数形成され、ハウス内の病原菌密度が増加する。罹病葉はできるだけ集めてハウスの外へ出す。薬剤防除は初期防除が重要で、ファンタジスタ顆粒水和剤などの薬剤を使って防除する。ただし、耐性菌が発生しやすいので、作用機作の異なる薬剤による体系防除とする。
枝の黒ずみ腐敗部
(側枝整枝痕からの感染)
整枝痕からの感染
枝が黒ずみ腐敗部が広がる
(茎罹病部位の陥没)
茎の地際部
(赤褐色の小粒:病原菌の子のう殻)
感染部より上の葉が縮れ、黄化
写真提供:
高知県農業技術センター 山﨑淳紀氏
茎に病徴が見られ、症状は、株の萎凋症状としてあらわれる。放置すると、株が枯死することがある。
ナスの茎、茎の地際部などで陥没した病斑が形成され、株が立枯状になる。病患部には、赤褐色の小粒(病原菌の子のう殻)が形成される。整枝痕や収穫痕からも感染することがあり、感染部より枝が黒ずみ腐敗部が広がる。枝途中で発生すると、その上部枝が枯死する。病徴が進むと、茎枝内部が空洞化する。
春期~秋期にかけて発生が多傾向がある。冬期で少ない。
多発圃場では、土壌消毒が必要。地上部への感染があり、罹病株の除去と、発病初期からの薬剤散布は重要。ファンタジスタ顆粒水和剤は防除薬剤として利用できる。
葉の発生した病斑
葉に広がった病斑
葉一面の病斑
果実のへたの病徴
葉、茎、果実に病徴が見られる。主に葉への発生が多い。多発環境下では、果実のへたが白くなるなど被害が増加する。
はじめ、葉にうっすらと白くなった様な病斑が生じる。病斑は次第に白色になり拡大し、葉の全面を覆うようになる。果実では、がくの部分が白色菌糸に覆われ、果実表面もうっすらと白くなる。葉の病斑は、やがて、灰色になる。
やや高温の乾燥した条件下、気温25~28℃、湿度50~80%。日照不足、過繁茂等で発生が増加する。露地栽培では、梅雨明け前後ぐらいから発生が増加する。ハウス栽培では、4月頃から発生が見られ6~7月頃まで続く、露地栽培では、6月中旬頃から10〜11月頃まで発生する。
密植、過繁茂を避け、株内の日照、通風を確保する。薬剤防除は初期防除が重要。多発すると防除が難しい。
葉の病徴
果実、葉、葉柄、枝に被害が見られる。
葉では、葉の周辺にぼやけた蒼白色(白っぽい緑)の円形病斑が生じ、拡大して、周辺部が明瞭な1cm程度の褐色病斑となる。若い葉では、周辺部がぼやけた紫褐色の病斑となる。病斑の中央部は灰色で、輪紋があり、小さな黒色小点が同心円状に形成される。葉脈付近の病斑では、葉脈に沿って病斑が拡大し、不整型になる。病斑が融合して大型病斑になることもある。枝では、ややくぼんだ、細長い褐色病斑ができ、枝を取り巻くと枝が枯死する。果実では、くぼんだ丸みを帯びた病斑ができ、拡大して、同心円状の輪紋を生じる。病斑表面には黒い小点が輪紋状にできる。果実はやがて、腐敗して落果するか、ミイラ状になる。幼果の果梗が侵されると果実がミイラ状になる。発生圃場では、輸送中に果実に病斑が生じることもある(貯蔵病害としての被害に注意する)。
被害発生は、気温が24~26℃ぐらいから発生が始まり、28℃以上で発生が増加する。多湿環境下で発生し、排水不良、密植、窒素過多で被害が増加する。露地栽培では、梅雨明け頃から発生が増加し、気温の高くなるに従って増加、10月頃まで発生が続く。ハウス栽培でも、5〜6月頃から発生することがある。
品種によって発生程度が異なる。高温多湿を避ける。被害発生圃場でナスを連作すると、被害が増加する。例年発生する圃場では、被害発生時期前、薬剤を予防散布して、被害発生を防止する。
葉の病徴
主に葉に病斑ができる。
葉に3~5mmぐらいの円形、楕円形部黄斑を多数生じる。病斑は、周縁部が褐色~赤紫褐色、中心部は、灰色~灰褐色。病斑部に暗褐色のかびが生じる。病斑は、古くなると中心部に穴があく。葉に多数の病斑ができ、融合して大型病斑となり、葉が落葉することがある。ナスへの実害は少ない。
ナスでは普通の病害で、夏以降(8月頃)に発生がはじまり、秋、降雨が多いと多発する。
樹勢が衰えたり生育後期にナスに普通に発生する病害。リン酸、カリが欠乏しないように肥料を施用する。
果実の病徴
(表面に灰白色のカビが見られる)
圃場の発生状況
茎葉、果実に被害が発生する。出荷流通過程で果実に発生し、被害の出ることがある。
病原菌は疫病菌の一種で、露地栽培で被害が多い。果実では、はじめ凹んだ褐色の病斑を生じ、拡大して果実の表面が茶色~褐色になって腐敗する。腐敗した果実表面には、白色~灰色、粉状のカビを生じる。茎では、淡褐色、水浸状(水でしみたような病斑)病斑ができ、表面が軟腐状になり、茎を取り巻くと上部の茎葉が萎れる。地際部の茎が侵されると株が枯死する。梅雨時の多湿環境下で、やや気温の高い時期に発生すると急速に蔓延して被害が大きい。
露地栽培のなすで発生する。梅雨時の6月上旬~7月にかけて発生が多い。秋期では、秋雨のはじまる9月から10月にかけて発生が見られる。降雨の多い、多湿環境下で発生する。病原菌の生育適温は28~30℃で、やや気温の高い条件下で被害が増加する。露地栽培で、多湿環境下、通風の悪い状態で被害の発生する病害。
圃場の被害発生圃場では例年発生することがあるので注意する。排水を良好にし、圃場の風通しをよくする(通風環境改善、密植を避ける)。
半葉に病徴の発生した事例
被害株の状態
病原菌は、根に侵入し導管内で繁殖し、症状は全身にあらわれる。最初に、葉に症状が見られる。やがて茎葉の萎れ症状がみられ、株が枯死する。
ナスの葉が、半葉、または、葉脈で区切られた部分が色あせた緑色になりしおれる症状がみられる。症状は、下位葉の葉柄に近い部分、葉縁部に症状が現れることが多い。葉縁部がやや巻き上がるような症状が見られる。葉ではやがて、主脈や葉脈で区切られた部分で色あせた緑色、黄化症状となり、やがて枯死する。株の一部の枝がしおれたり、株の片側がしおれて枯死する症状を示す。こうした症状は、夏期高温時には、やや軽減されるが、9月以降、涼しくなると再び症状が顕著になる。病原菌は土壌伝染性で、被害が発生すると根、茎、罹病葉中に大量の微小菌核を形成し、これが土壌中に残って発生を繰り返す。被害が発生すると土壌消毒が必要になる。
地温が20℃前後になる時期より発生し、22~26℃が発病適温。西日本で半促成ナスでは、5月の連休頃から発生が始まり7月梅雨明け頃まで発生する。
ナスを連作し、被害発生を経験した圃場では、発生の可能性が高い。湿潤土壌で発生が多い傾向があるが乾燥土壌でも発生する。苗による伝染、土壌の移動による伝染、水路による伝染(上流部の圃場からの土壌の流出)に注意する。
抵抗性台木(トナシム、トルバム・ビガー、トレロ、カレヘン等)により被害を抑制することが可能である。発生圃場では、抵抗性台木による接ぎは必須である。多発圃場では、太陽熱消毒、土壌消毒が有効。水田との輪作栽培は、発生を極力抑制する効果が高い。被害発生圃場では、被害株を取り除き、罹病茎葉を圃場に残さない。
被害株の状態
被害発生圃場の状態
罹病株の茎からの菌泥漏出
病原菌は根から侵入し、導管内に入り込み、増殖、維管束の閉塞を起こして、株の萎凋枯死が発生する。株全体の症状で、青枯状になり枯死する。
日中に株の茎頂部が萎凋し、夜間に回復する症状がみられるようになり、やがて、萎凋症状は、回復することなく恒常的となり、やがて株が枯死する。萎凋株の茎を切断すると(地際に近い部位)、維管束部が淡褐色に変色している。茎を切り取り、水につけると白色の菌泥が見られる。また、茎を強く指で押すと維管束から濁った液汁が出る。発病圃場では、ナスの根に病原菌が残り、土壌中、深部まで病原菌が分布する。土壌中の病原菌は、地下水等で移動、拡散する。罹病株は、早期に抜き取り圃場外へ持ち出す。
露地、ハウス栽培とも発生する。露地栽培では5~6月の気温の高くなる時期から発生が増加、10月頃まで発生する。ハウス栽培では、地温が高い場合3~4月頃からでも被害の見られることがある。病原菌は水によって移動し、地下水位の状態で発生が増加することがある。病原菌が水によって移動するので、発病圃場からの地下水によって病原菌が移動、伝染することもある。また、水はけの悪い圃場で発生が多い傾向がある。
多発圃場では土壌消毒が必要になる。抵抗性台木(台太郎、カレヘン、トルバム・ビガー等)が防除に有効であるが、病原菌のレースによっては、発病することがある。多発圃場では、太陽熱消毒、土壌消毒が必要になる。罹病株を圃場外へ持ち出すこと、罹病株に接触したハサミ等で健全株に接触すると、汁液によって伝染するので注意が必要である。しおれを生じ、青枯病と診断された株は、早期に抜き取り圃場外へ持ち出す。
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