Keno Okayama
若い枝の病斑
黒色楕円形のくぼんだ病斑
枝の越冬病斑
着色期の激しい果実病斑
成熟期の病斑
果実病斑上の胞子の粘塊
若い枝、果実、葉柄に発生する。
若い枝に5月頃から発病する。病斑は黒色の楕円形で、拡大するとくぼんだ紡錘形(円柱状で中ほどが太く、両端が次第に細くなっている形)になる。枝が硬くなると病斑の周囲が盛り上がり、中央がへこむ。やがて炭化したように黒くなり、表面に亀裂が入る。果実では幼果から成熟期まで発病する。はじめ黒色の小斑点ができ、拡大すると円形〜楕円形のくぼんだ病斑になる。降雨が続くと病斑上に鮭肉色の粘質物(胞子の塊)を生じる。幼果は発病するとヘタを残して落果し、着色期の病果は赤くなって落ちる。
主な伝染源は越冬枝の病斑であり、落葉痕や芽にも菌が潜在する。平均気温が15℃以上で湿度が高いと病斑上に胞子をつくり、20〜27℃で降雨が続くと発生が多くなる。5〜6月に降雨が多いと増殖した胞子が雨滴に混じって飛散し、若い枝や幼果に感染して発病が助長される。混み合った徒長枝や夏秋梢、着色期の果実は発病しやすく、8〜11月に降雨が多いと果実の被害が激しくなる。カキだけを侵すと考えられるが、罹病枝(病気に感染した枝)は枯れても菌は長期間生存する。排水や通風の悪い園、密植園では被害を受けやすい。早秋は弱く、葉柄に激発して落葉する。富有は弱く、平核無や次郎は中程度、西条は強。
病枝の剪除が最も重要であり、剪定時に罹病枝を切除して処分する。徒長枝や二次伸長枝は感染しやすいので、夏期剪定時に不要な枝を切除する。放任樹が近くにあると伝染源になるので伐採する。窒素肥料の過用や強剪定を避け、徒長枝の発生を抑える。薬剤防除は4月下旬〜7月上旬と8月下旬〜9月上旬に実施する。台風があると多発することがあるので前後の薬剤散布が必要になる。
葉の円形病斑
早期落葉する罹病葉
早期落葉した樹の果実は未成熟で着色
葉に発生する。
はじめ葉に黒色の円い斑点ができ、しだいに拡大して直径6〜7mmになる。病斑の中心は赤褐色、周囲が黒色で外側には緑色が残る。早い年には8月下旬、通常は9月上旬から発生し始める。樹勢が弱いと発病が早まり、病勢が急速に進展する。多発すると葉全体が茹でたような状態となって激しく落葉し、果実は成熟前に軟化して落果する。
伝染源は病斑を形成した落葉である。病原菌は落葉の病斑組織内で越冬し、翌春に子のう殻をつくって内部に子のう胞子ができる。子のう胞子は5月上旬〜7月上旬の降雨後に飛散し、周囲の葉に感染する。子のう胞子の飛散は10〜30℃で行われ、最適温度は20℃である。感染葉はすぐに発病せず、高温期に潜伏感染して9月頃から発病する。冷夏年や秋冷が早いと発病が早まり、多発しやすい。発病葉の病斑は翌春まで胞子を形成しないため二次伝染はない。富有、平核無、西条ともに弱い。
伝染源となる落葉を集めて焼却または土中埋没を徹底する。適正な肥培管理、土壌管理に努め樹勢の維持増進を図る。薬剤散布は主要感染期である5月中旬~7月上旬に複数回行うと高い効果がある。本病は潜伏期間が長く、発生後の防除では効果がない。多発園で落葉処理ができず、この時期の防除を怠ると、9月頃から葉、果実とも一斉に落ちて、収穫皆無となることもある。
葉脈に区切られた多角形病斑
(和歌山県果樹試験場かき・もも研究所提供)
葉脈に限られた葉裏の病斑
(和歌山県果樹試験場かき・もも研究所提供)
紅葉して早期落葉する発病葉
病斑が形成された葉は
早期落葉する
(和歌山県果樹試験場かき・もも研究所提供)
葉に発生する。
はじめ葉の表面に不整形の褐色斑点ができ、拡大して葉脈に区切られた多角形の病斑ができる。やがて中央部が赤褐色で周囲は黒色となり、赤褐色部の表面に黒色の小粒点(分生胞子層)ができる。発病は7月頃から落葉期まで続く。8月下旬以降に多発し、病斑が多いと早期落葉するが、円星落葉病より被害の程度は軽い。
伝染源は病斑を形成した落葉である。病原菌は罹病落葉で越冬し、5~6月に胞子をつくる。胞子は雨滴に混じって飛散し、新葉に感染する。感染は5月上旬~7月上旬まで多く、7月下旬まで続く。病原菌の発育適温は30℃付近である。感染葉は約1か月の潜伏期間を経て発病し、病斑上に胞子をつくって二次伝染する。落葉症状は円星落葉病よりも緩やかであるが、温暖化により発生が増加傾向にある。
伝染源となる落葉を集めて焼却または土中埋没を徹底する。薬剤散布は円星落葉病との防除を兼ねて5月下旬~7月上旬に実施する。円星落葉病に比べて発病が早く、二次伝染するので感染期間が長いが、秋期防除の必要性は低い。樹勢が低下すると多発するので、肥料不足とならないように適正な施肥管理を行う。
葉裏の初期病斑
葉裏全体に発生した病斑
葉裏の白色菌そう
激発時の症状
葉裏の病斑と
黒色粒状の子のう殻
枝に付着して越冬する
黒いゴマ粒状の子のう殻
葉に発生する。
5〜6月の若葉に黒色の小斑点ができ、黒点が集まって直径1〜2cmの病斑を形成する。発病葉の裏面には白色のカビができる。高温期には病勢が一時停滞するが、気温が低下すると白色〜灰褐色のカビが葉裏全体に広がる。このカビは胞子と菌糸の集まりで、胞子は風で飛散し、二次伝染して蔓延する。多発すると早期落葉する。10月頃には白色菌そうの中に黒色の小粒(子のう殻)ができる。発病葉上に形成した子のう殻は脱落し、枝に付着して越冬する。
伝染源はカキの枝などに付着した子のう殻であり、カキだけに感染する 。菌の生育適温は15〜25℃で26℃以上では発育を停止する。4月下旬〜5月上旬に子のう殻から子のう胞子が飛び出して若葉に感染する。若葉は5月上旬頃から発病し、空梅雨の年は多発しやすい。盛夏期には高温のため潜在感染するが、冷夏年には発病が早まり、秋に激発する。8月下旬頃から気温の低下とともにうどんこ病特有の白粉症状が現れ、9月下旬頃から発生が増加する。富有は発病しやすい。
病原菌は枝や幹などの樹上で越冬するので枝に子のう殻の付着が見られる場合は、剪定時に除去し、ほ場外へ持ち出して処分する。窒素肥料の過用を避ける。薬剤散布は5月中旬~6月および9月上旬に実施する。常発園では発芽直前の休眠期に薬剤防除すると生育期の発生を軽減できる。
若葉の先端から発病した病斑
花弁や幼果の病斑
へたの病斑
果実の病斑
果実表面がコルク化した病斑
葉、花弁、果実、へたに発生する。
葉では5~6月に先端付近や葉縁が淡緑色に枯れ、淡褐色になって落葉する。果実では発病した花弁が幼果に付着して幼果の表面に黒点ができる。へたに感染すると淡褐色で周囲が黒色の病斑をつくる。果実全体が発病して落果することもある。湿潤状態が続くと病斑上に灰色のカビが生え、胞子をつくって二次伝染する。
病原菌は罹病葉や周辺の作物、枯れ草などの植物残渣で繁殖し、降雨があると胞子が増殖して風で飛散する。開花期に気温が低く降雨が多いと、花弁が幼果から離れずに残っているため発生が多くなる。発病適温は20℃~25℃で、葉や花弁は濡れると1日で感染し、濡れ時間が長いほど発病程度が高まる。このため、4~5月頃にやや低温で降雨が続くと発病が助長される。また、強風があると若葉が傷つき、発生が多い。御所や西条、伊豆は弱く、激しく落葉して落果することがある。
4〜5月に強風があって葉が傷つくと多発しやすいので、その前後に薬剤散布によって発病を抑える。防風垣や防風ネットを設置して葉の損傷を防ぐ。落葉は伝染源になるので焼却または地中に埋める。被害葉や罹病した花弁は早めに除去する。軟弱な徒長枝が茂ると発病を招きやすいので窒素肥料の過用を避け、通風を良くする。
葉の黒色病斑
新梢の病斑
若葉の激症病斑
枝の越冬病斑
幼果の病斑
果実に多発した病斑
(島根県農業技術センター提供)
葉、新梢、果実に発生する。
葉では若葉に5~6月頃光沢のある黒色病斑ができる。病斑の周囲は黄色を帯び、葉裏にカビがはえる。多発すると早期落葉する。新梢では小黒点〜紡錘形の黒色病斑ができ、中心部にカビがはえる。病斑の表面が裂け、そうか状になる。果実にも若葉と似た黒色病斑を生じる。病斑は炭疽病と似ているが、表面に鮭肉色の胞子をつくらず、黒いカビがはえる。
伝染源は枝の越冬病斑である。4月中旬以降の降雨で病斑の表面に灰黒色、すす状の胞子ができる。この胞子が雨滴に混じって飛散し、葉や新梢、果実などに伝染して7〜10日後に発病する。病斑上に次々と胞子をつくり、二次伝染する。主な感染時期は4月中旬〜6月下旬で、春先から低温で降雨が続くと発生が多くなる。西条、祇園坊は弱く、次郎は中間、富有、平核無は強い。
剪定時に越冬病斑のある病枝を切除し、焼却または土中に埋める。薬剤散布は4月下旬~5月下旬に実施し、この時期に降雨が多い時には散布回数を増やして予防に努める。被害枝や被害果実は見つけ次第取り除く。放任樹が近くにあると伝染源になるので伐採する。
果実表面の小黒点病斑
果実表面のロウ物質が
消失した病斑
油浸状となり商品価値がなくなる
果実に発生する。
果実の表面に小黒点が散生または群生し、果粉(ワックス)が消失する。黒点はハエの糞に似た小菌核様の菌糸組織で、外観が著しく損なわれる。果実の発病は下位枝に多く、果実内部の被害はないが、商品価値が低下する。風通しの悪い園や日陰になる場所で発生しやすい。ブドウ、リンゴ、ナシ、スモモにも発生する。
病原菌はカキやブドウなどの果樹類だけでなく、ネムノキやナラガシワ、アラカシなど多くの植物を宿主とする。宿主植物の多い山間部の園で発生が多い。本菌は枝や果実表面のワックスを栄養源としており、5月下旬頃から宿主植物でつくられた胞子がカキに飛散して感染し、7月上旬頃から果実が発病する。新しい病斑上に胞子をつくり、二次伝染を繰り返す。比較的低温性の菌であり、6〜7月に降雨が多く低温が続くと多発する。品種間の発病差異はない。
密植栽培や過繁茂を避ける。園の周辺に宿主植物となる果樹がある場合は可能であれば防除を行い、ネムノキやナラガシワ、アラカシ、クヌギ、ノブドウ、竹などの宿主植物がある場合は伐採する。密植栽培を避け、日陰を作らないようにする。主要感染時期である6〜7月に予防に重点を置いて薬剤散布を行う。炭疽病や落葉病の薬剤散布により、本病も防除できる。
葉の病徴
(島根県農業技術センター提供)
葉裏の黒点(柄子殻)
(島根県農業技術センター提供)
新梢の巻葉症状
(島根県農業技術センター提供)
果実の病斑
(島根県農業技術センター提供)
着色期果実の病斑
(島根県農業技術センター提供)
葉、葉柄、新梢、花、果実、へたに発生する。
4月下旬頃から葉や新梢に小黒点(柄子殻)ができ、5月頃に巻葉症状が発生する。このような葉には多数の黒点ができ、奇形して夏期に落葉する。7月上旬以降、発病した新梢から周囲に広がり、樹勢が低下する。花では開花期の花弁に黒点ができる。果実では落弁直後から黒点ができ、多数集まって汚斑症状となる。未熟な果実ほど激しく発病する。
病原菌は樹上で越冬し、翌年の伝染源になる。感染は発芽期~7月の長期にわたり、5〜6月に降雨が多いと多発する。落弁直後に感染すると汚斑症状が激しく、7月上旬から8月上旬にかけて発病果の発生が急増する。発病は日陰や雨水の溜まるような下枝に多い。耕土が浅く、樹勢の弱い樹に発生が多い。西条は弱く、富有は発生が少ない。
新梢の防除には5月からの薬剤散布が必要であるが、果実の防除は6〜7月の梅雨期の薬剤散布が重要である。発生園では炭疽病や落葉病等の防除も兼ねた薬剤散布を行う。枝が茂り、日陰になると発病が多いので、整枝、剪定によって枝の混み過ぎを避ける。摘果時に被害果や巻葉症状が発生した新梢を取り除く。
謝辞:本稿作成にあたり、提供元記載のない写真は、
奈良県農業研究開発センター、奈良県病害虫防除所から提供を受けた。提供していただいた各機関に謝意を表する。
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