Hideo Nasu
越冬病斑
幼果の激しい病斑
成熟果の激しい病斑
果実、枝に発生する。
幼果では6月中旬頃から楕円形で淡褐色の小さな斑点が果梗(果実の柄)近くにでき、激しくなると果実全体にできる。果実が肥大するにつれて、斑点はやや細長く、色も濃くなり、斑点同士がくっついて大きくなる。激しくなると、重なったところから、小さな亀裂ができる。類似病害の「せん孔細菌病」では、病斑が黒褐色、不整形でやや凹み、ヤニを出すことが多いので、本病とは区別できる。
枝では6月頃から淡い赤褐色でやや隆起した楕円形の病斑となる。秋には長径5〜10mmの楕円形で、淡灰褐色となり、これが翌年の伝染源となる。
枝の病斑で越冬した病原菌は4月下旬頃から、雨滴に混じって飛散し幼果や新梢に伝染していく。無袋栽培や袋掛けの遅れにより、発生が多くなる。また、低湿地や風通しの悪い園で発生しやすい。病原菌が雨滴に混じって伝染するので、梅雨時期が長くなる年には発生が多くなる。また、樹が古くなると、伝染源が多くなるので、発生も多くなる。近接のうめの黒星病の罹病枝からも、ももに伝染する。
剪定時に越冬病斑のある枝はできるだけ切り取り処分する。無袋栽培では発生が多くなるので、有袋栽培を行う。また、もも園の排水をよくして、密植をしないようにして風通しを良くする。発芽前と幼果期の薬剤散布が重要である。うめの黒星病も同じ病原菌のため、もも園ではうめを栽培しないようにする。
花腐れ
葉腐れ
幼果の病斑
成熟果の病斑
花、枝、果実及び葉に発生する。
花では花弁が褐色となって腐り、ミイラ状の「花腐れ」となる。若葉では基部が侵されてしおれて枯れる「葉腐れ」。枝には花腐れや葉腐れが発生したところからやや凹んだ褐色の病斑ができ、ヤニを生じる「枝病斑」。これらの被害部には灰褐色で粉状のカビ(胞子)ができる。幼果に発生すると、淡褐色〜褐色になり落果したり、ミイラ果となって樹上に残る。また、縮葉病の罹病葉にも本病原菌のカビが増殖する。
成熟果では収穫直前から、淡褐色で水がにじんだような円い病斑ができる。曇雨天の日が多いと、病斑の広がりが速く、数日で果面全体に広がり、その表面には灰色で直径1mm程度の小さなカビの塊が多数できる。東北地域では収穫後や輸送中にも発生することが多い。
果梗や枯れ枝で越冬した病原菌、その後、花腐れ、葉腐れ、枝病斑および縮葉病の病葉に形成された病原菌が4月上・中旬頃から、長期間にわたって飛散して被害が拡大する。梅雨が長く、降雨の多い年には発生が多くなる。また、近接のおうとう(さくらんぼ)、すももなどの灰星病の被害果からも、ももに伝染する。
剪定時に枯れ枝やミイラ果を切り取り焼却する。また、花腐れ、枝病斑および縮葉病の葉も切り取り処分する。発生園ではできるだけ早い袋掛けを行う。開花前後と幼果期〜袋掛け期の薬剤散布が重要である。おうとう、すももなどにも発生して伝染源となるため、これらをもも園に植えない。
越冬病斑
果実の初期病斑
果実の激しい病斑
果実、枝に発生する。
幼果には発生せず、成熟した果実に発生する。果実の縫合線部に淡褐色の斑点ができ、次第に広がり、大きな楕円形になる。これらの部位には小黒点(分生子殻)が多数できる。これらの点から、他の果実腐敗とは区別できる。地域によっては、収穫後のももにも発生する。枝では春先になって芽枯れや先枯れができるが、病原菌は前年に侵入し潜伏している。
先枯れ枝に形成された病原菌が雨滴に混じって長期間飛散し、特に、虫害や擦れ及び核割れなどの傷口ができた部位から侵入する。
摘果時には枝の枯れた部位を取り除く。有袋栽培を行うとともに、排水をよくし、密植を避けて、風通しをよくする。
幼果の病斑
成熟果の病斑
果実に発生する。
幼果には白い粉をまいたような、白色の円形病斑ができる。果実の肥大につれて、この円形は白色から、淡褐色〜褐色となる。成熟果ではこの部位は淡褐色となり亀裂を生じるが、腐敗はしない
4〜5月に晴天日が多く高温となる年に多い傾向がある。
慣行防除により、本病も抑えられるため、一般に本病の発生は少なく、袋掛けに必要な果実は確保できることが多い。
初期病斑
葉の症状(井上原図)
新梢の病斑
激しいこぶ症状
幼果の病斑
葉に多いが、まれに幼果や新梢(若い枝)に発生する。
葉が出て最初に発生する病気である。葉には火ぶくれ状の淡赤色や淡黄色の斑点ができ、次第に病斑が拡大すると、赤色や黄色に着色して、葉の一部や全体が厚くなって凸凹状となる。その後、病斑部には白っぽい粉で覆われ、葉が垂れ下がる。病葉は数枚から十数枚でかたまることが多いので、遠くからでも簡単に見つけることができる。病葉は古くなると落葉する。
若い枝に発生すると、葉と同じように凹凸となって肥大し、節間が短くなって全体が黄褐色となり、その後、褐色になって枯れる。このような枝では多くの葉にも発生する。幼果では病斑部が凹凸になって肥大し、表面がつるつるになり、その後、白い粉を生じて落果することが多い。
本病の伝染源は枝や芽で、外見上健全な状態で病原菌が越冬している。春先の低温条件で発生しやすく、発生が見られるのは4月中・下旬から5月上旬頃で、気温が上がる5月中下旬以降になると、ほとんど発病しなくなる。樹では枝の先端部など薬剤がかかりにくい部位に発生しやすい。
枝や芽で越冬しているため、発芽前防除が必須で3月の風が少ない日に枝や幹に薬剤を十分量散布すると、ほぼ防除できる。発病してからの薬剤散布では効果が高くないため、発病を見つけたら病気が広がらないように、葉などをかき取る。
葉の後期病斑
春型枝病斑
(スプリングキャンカー)
(井上原図)
幼果の病斑(井上原図)
夏型枝病斑
(サマーキャンカー)
成熟果の病斑
果実、葉、枝に発生する。
若葉では小さな白いカスリ状の斑点ができ、水がにじんだようになる。その後、淡褐色に変わり、穴が開いて落葉する。この症状は葉の先端に出やすい。これらの被害葉が多い枝では、枯死した芽から広がった春型枝病斑(スプリング・キャンカー)が見られる。春型枝病斑の初期は暗い色でやや盛り上がっているが、次第に褐色、楕円形〜不整形の病斑を生じ、亀裂やかさぶた状になる。これらから病原菌が雨滴に混じって飛散して夏期頃にできる枝の病斑を夏型枝病斑(サマー・キャンカー)という。
幼果では針で刺したような褐色の小斑点を生じ、ヤニがでる。この斑点は果実が肥大するにつれて、褐色から黒褐色になり、不定形の亀裂を生じる。
芽や皮目などで潜伏して(病斑のない状態)越冬した病原菌が早春から活動をはじめ、4月中・下旬からスプリング・キャンカーを形成する。ここから雨のしずくと一緒に病原菌が飛散して葉、果実及び枝に病斑ができる。病原菌は傷口や気孔から侵入するので、風当たりの強い園や樹に発生が多い。秋に暴風雨が多い年には、翌年の発生が多い傾向がある。
強風の常発園では栽培しない。薬剤の効果は高くないので、風によって傷口を作らないように、防風林やネットなどを設置する。スプリング・キャンカーは見つけ次第に切り取り処分する。秋伸びした枝にはスプリング・キャンカーができやすくなるので、肥料が遅効きしないようにする。銅剤の開花前散布及び生育期間中に定期的な薬剤散布を行うとともに、伝染源を少なくするために秋期散布が必要となる。
果実の病斑
果実の病斑(着色後)
すすかび病による着色不良
(井上原図)
すす病
果実に発生する。
収穫した果実に淡褐色〜褐色の様々な不定形の斑紋ができる。激しくなると、斑紋は果実全体に広がる。類似の病気には「すす病」がある。すす病は果実上でアブラムシ類やカイガラムシ類などの抜け殻や排泄物で増殖したカビが、黒褐色になって見える。その近くの葉にも同様の被害が見られる。本病は、すす病に比べて、果実の変色程度が軽微であることや、葉には発生しないことから区別できる。
病原菌はももの枝に潜伏して越冬しており、4月頃からカビが風雨で飛散する。その後、幼果に付いて潜伏した後、増殖するが、肉眼ではわからない。そのため、袋掛け時には肉眼ではわからず、収穫して初めて気付く。
無袋栽培のももに発生が多く、有袋栽培でも袋掛けが遅くなると発生が多くなる。また、風通しの悪い園でも発生が多くなる。冷夏・長雨の年には発生が多い傾向がある。収穫時期が遅くなると、発生が激しくなるので、適期収穫を行う。伝染源になるため、剪定枝は焼却する。有袋栽培を行う。また、ももの密植を避けて風通しをよくする。
徒長枝のこぶ病斑
数年後のこぶ病斑
主幹での皮目陥没病斑
枝、幹に発生する。
新梢のうち、勢いよく伸びた徒長枝の基部に直径3mm前後のいぼが数個から数十個ができる。年数を経て病気が進行すると、枝の表面が粗くなり、亀裂を生じて、ついには病枝が衰弱して枯死する。主幹では皮目(空気のとおる穴)を中心に直径5〜10mmの凹んだ円い病斑になるが、その後膨れてイボ状になる。激しくなると、若い枝と同様に表面は粗くなる。梅雨時期には被害部から盛んにヤニがでる。
枝や幹に生じた小黒点(分生子殻)から病原菌が雨滴に混じって4〜10月に飛散するが、梅雨期の6月中旬〜7月中旬に特に多くなる。徒長枝のイボは9月頃から、主幹の皮目がやや凹む症状は翌年2〜3月頃から形成される。発病樹の病斑は樹齢に応じて増加していくので、古い園ほど発生が多くなる。
苗木での発生がないかを調べる。剪定時に被害枝を切り取り、処分する。主幹での初期発病の部位には削り取り後に塗布剤を塗る。発生園で新植すると、初期から発病して、生育できず衰弱する。そのため、発生園では更地にしてから新植することが重要である。薬剤散布に当たっては飛散の始まる梅雨時期前に薬剤を散布するが、薬剤の効果は高くない。
かさぶた状の中期病斑
(井上原図)
後期病斑(井上原図)
葉の病斑(井上原図)
枝の 病斑(井上原図)
果実、葉、枝に発生する。
幼果にはじめ、5月上旬頃から径1〜2mmの淡褐色〜茶色の円い病斑ができる。果実の肥大に伴い病斑も拡大すると、不整形や茶褐色のかさぶた状になり、亀裂やヤニを生じる。激しくなると、数cmの大きな病斑となり、病斑の外側にまで亀裂を生じる。「せん孔細菌病」では黒〜黒褐色の円形となり、凹みが深いことから、本病とは区別できる。
葉では5〜10mmの円形〜不整形、黄緑色や灰色の病斑となり、その後、やや拡大して茶褐色となり、穴があく。また、葉脈に沿った2〜5cmの褐変を生じることもある。枝では数mmの赤褐色の円形病斑ができる。その後、拡大して茶褐色となり、やや凹み、縦に亀裂が入りヤニを生じる。多発すると早期に落葉する。
枝病斑で越冬した病原菌が翌年に飛散して伝染する。5月〜梅雨時期及び9月に気温が高く、降雨が多いと発生が多くなる。近くに池などがあり、湿度が高くなる園や山際で風通しの悪い園で発生が多い。
品種間差があり、清水白桃は弱いので、これ以外の品種に更新する。発病果や発病枝は見つけ次第処分する。開花後から袋掛けまで約10日おきに有効な薬剤を用いて定期的な散布を行う。
葉の病斑
葉裏の病斑(夏胞子)
(井上原図)
越冬病斑
果実の病斑
成熟果の病斑(井上原図)
葉、枝に発生し、まれに果実に発生する。
葉では表面に淡褐色の小斑点ができ、その裏側には褐色の粉のような小さな塊(夏胞子堆)が多数できる。激しくなると落葉する。枝では春先に表皮が破れ、内側から褐色の粉のような塊(夏胞子堆)ができる。果実には5〜10mm大の円形で、やや陥没した褐色の斑点ができる。激しい場合は亀裂を生じる。
ももの枝上で春先に形成された夏胞子が飛散してももの葉に発生する。また、イチリンソウやスハマソウを中間寄主としている。これらの植物上にできたカビ(さび胞子)が飛散して、6〜7月にももの葉に侵入して、形成された小斑点上のカビによって伝染を繰り返す。病気の伝染源としてはもも枝のほうが中間寄主よりも重要である。
発生した枝は剪定して焼却する。葉への侵入を防ぐために、4月下旬から5月中旬にかけて薬剤を散布する。
成熟果の病斑(井上原図)
カイガラムシによる吸汁痕
(井上原図)
果実に発生する。
果実に着色期頃から、1〜2mm程度の赤い小斑点の病斑ができる。成熟期には病斑は暗赤色になる。小斑点は果梗の近くから赤道面にかけてできることが多い。カイガラムシによる被害では斑点の中に白い点(吸汁痕)ができるので、本病とは区別できる。
病原菌は枝上に病斑を作らずに越冬しているとされており、翌年に病原菌が形成され飛散して果実に伝染する。風がこもり湿度が高い園で発生が多い傾向がある。
早い袋掛けが有効とされている。幼果期に薬剤散布をする。
幼果の病斑
成熟果の病斑
果実、花、葉に発病するが、主に幼果である。
幼果ではガク(花弁)の残っている部分で病原菌が増殖して、幼果との接触によって褐変し、激しくなると腐敗して落果する。成熟果では核割れや害虫の被害でできた傷口から褐変腐敗し、数日後には灰色のカビが生える。
病原菌は植物残渣で繁殖しており、降雨条件下で容易に増殖し風によって飛散する。落花後に降雨が多いと花弁が幼果から離れずに残っているため、発生が多くなる。
降雨後の晴れた日に幼果に付着している花弁の除去が有効であるが、一般には発生は少なく、袋掛け時の果実数の確保はできる。
謝辞:
病気の解説作成に当たり、岡山県で発行された「岡山県農作物病害虫雑草図鑑」、
「目で見る岡山の病害虫雑草図鑑」、「農作物病害虫雑草図鑑」に負うところが多い。
記して謝意を表する。
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